安部政権の税制問題。その特徴をひと言で表せば、大企業や富裕層には優遇し、中小企業や国民には犠牲を強いるものといえます。安部政権による税制改正の特徴を指摘しましょう。
第1は企業に対する約6500億円の大幅減税です。そのうちの大部分は減価償却制度の見直しであり、その額は6000億円に達します。減価償却の見直しとは、これまで取得価格の95%までだった償却限度額を2007年以降は全額認めたことです。
さらに最近、情報技術革新が進み、設備更新のスピードが早い液晶、半導体関連設備は、これまで8~10年だった償却期間が今後5年に短縮されました。この減税はすでに実施されている研究開発・技術革新減税(約7000億円)に匹敵する大幅なものです。これらの大幅減税はほとんど大企業のためと言ってよいでしょう。設備投資の約6割は大企業が行っているからです。2004年度時点での全企業のうち約7割が赤字で、その多くは中小企業です。これらの赤字企業にとって減価償却減税はまったく関係ありません。
第2は証券税制優遇措置の延長です。これで約300億円の減税です。上場株式の売却や配当への課税は本来20%でしたが2003年以降は10%とする優遇措置がとられてきました。
これは株式売買を手厚く保護し、株価上昇をねらった小泉・竹中改革の1つの方針でした。この措置の期限が、売却益は2007年末、配当は2008年3月末でしたが、これが今回2008年末、2009年3月末と1年間延長されました。導入が決定した当時は日経平均株価が9000円台割れの状況にありましたが、現在、株価は上昇し、17000円台に復活しており、このような危機対策はまったく必要なくなりました。にも関わらず財界・証券業界からの強い要望で延長されました。
このような優遇措置の延長は明らかに特定富裕層の減税と為ります。家計の金融資産をみても株式保有はわずか12%にしかすぎません。大多数の国民にとっては株式売買による利益は関係がありません。調査によるとこの優遇措置によってわずか3.8%の富裕層が減税額のうち64%を占め、一人当たり約1150万円になることが明らかになりました。
以上のように大企業・富裕層に大幅な減税を行いながら、家計に対しては90億円程度の減税でしかありません。そのうち80億円は住宅取得に関わる特例の延長です。しかも大多数の国民にはすでに決定しているように、2007年の定率減税全廃により、1.7兆円の減税となるのです。
今回の改正方針で実施が先送りされたものの、実施が予定されているのは消費税率引き上げと法人税率引き下げです。消費税率1%の引き上げで約2.5兆円の増税、法人税10%引き下げならば約5兆円の減税となり大企業のみ優遇する安部政権の本質がより露骨に表れています。
今財界がもっとも強く要望しているのが実効税率の引き下げで、現在の40%から30%にせよと言うのです。その根拠としてヨーロッパやアジア諸国と比べて税率が高いこと、競争力を強め、活性化を図るために絶対に必要であるとの2点をあげています。
しかしこの根拠は完全に間違っています。米の実効税率は40%、独は39%と日本と同水準ですが、仏、伊、中などでは30%,アジアでは30%以下の国があるのは事実ですが、日本の大企業の実効税率は各種優遇措置で実質的に30%台が多く、なかには20%台の企業もあるのです。もう一つの根拠である法人税引き下げは投資活動に影響せず、したがって経済活性化にはつながらず、たんに税の分配を変えるのみであることは経済学の常識です。
現実に新自由主義者レーガン大統領の下で1980年代に行われた自由化・規制緩和、法人税引き下げ、富裕層の大幅減税政策は大失敗でした。米経済は好転せず、逆に巨額の財政赤字、貿易収支赤字を招きました。
今、政府がやるべきことは、大幅な利益を上げている大企業優遇策をやめ、国民や中小企業を重視することです。このままでは日本の景気はますます悪化するでしょう。
2007年1/22付 商工新聞 今宮謙二中央大学名誉教授