ロケットの断熱技術を応用 建築塗材を開発=東京・板橋
写真上:断熱、防露、消臭などに効果を発揮するガイナ
写真下:同じ熱源(80W)でも暖房効果を発揮するガイナ ― 塗布前は35.0度だが塗布後は40.1度と5度の差が出ている
外国の政府機関、日本国内の大手企業はじめ、年間4000人が視察に訪れる企業があります。東京都板橋区にある社員30人の株式会社日進産業(石子達次郎社長、板橋民商会員)です。主力製品は「ロケットの断熱技術」を応用した「ガイナ」と呼ばれる断熱塗材です。
ガイナの性能を知ろうと訪れたのは日進産業の「ガイナ実験体感室」。
ガイナを塗布したものとそうでない10センチ四方の鉄板を準備。熱源で温め、ガイナを塗った80度近くの鉄板に触わります。目玉焼きができる温度だけにやけど覚悟でしたが、ほんのりと温かいだけ。
さらに驚いたのは117度まで温度が上がった鉄板に息を吹きかけた時でした。検温計で測ると、普通の鉄板は1度下がっただけ。一方、ガイナを塗った鉄板の温度はなんと76度に下がっていました。マイナス13度まで冷やした時も、普通の鉄板の面は痛いように冷たかったのに比べ、ガイナ塗装の面は少し冷たい程度です。
(1)熱をため込みにくく(2)遠赤外線効果で熱を外に逃がし(3)周辺の温度に同化しようとする-これがガイナの特質だといいます。
「住宅リフォームに大いに活用してほしい」と話す石子社長
セラミック使う独自の技術開発
いまでこそ日進産業の主力製品となったガイナ。しかし同社はスチール製棚の機械組み立てとして出発。塗料とはまったく縁のない会社でした。「開発研究はまったくの偶然なんですよ」と石子社長は振り返ります。
それは創業から13年たった90年のことでした。当時エアコンの組み立て製造設計の仕事を受注した石子社長に、工場責任者が「工場の中が暑い。何とかしてくれ」と依頼したのです。
「断熱材を入れればいい」と簡単に引き受けたものの、機械と工場の壁のすきまは断熱材さえ入らないわずか5ミリのスペースがあるだけ。「依頼を断るしかない」と悩んでいた時、偶然目にしたのが机の上にあった黒色と白色の2種類の広告でした。触って見ると、同じ太陽の光を受けながら白い広告は冷たかったのです。
「カミナリが落ちたような衝撃を受けた」石子社長。以来、機械の設計・組み立て仕事をしながら、独自にこのナゾに挑み続けました。“なぜ白いものは冷たいのか”。試行錯誤の末にたどり着いたのが特殊なセラミック。それを塗料に混ぜる独自の技術を開発したのです。
さらに6年前大きな転機を迎えます。当時、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が募集していたH-2ロケットを守るための高性能断熱塗材技術の民間転用のためのプロジェクトに応募。大手企業含め数十社がいずれも失敗するなかで、日進産業だけが転用に成功。ライセンス契約を結び、その技術を暮らしの中で活用できるように商品としてつくりあげたのが、ガイナでした。
電気使用料が13%も減った
その優れた「商品力」はお客を引きつけました。屋根や壁、天井に塗るだけで遮熱、消臭、防露などと幅広い効果を発揮。住宅建築やリフォームをした施工主から「2カ月間で電気使用料が13%減った」「たばこの臭いが気にならなくなった」「冬の室内温度が7・7度上がった」などの反響が相次いだのです。
開発当初の93年には、18リットル缶で年間20缶ほどの出荷だったものが、5年後には月100缶以上に急増。今では1カ月で4000缶を超えるほどの出荷となっています。
大手有名企業が権利買いたいと
ガイナに目をつけた大手企業も押し寄せました。国内の大手有名企業からは「1100億円で製造・販売の権利を売ってくれ」と持ちかけられたこともありました。
「もうけようと思えばいくらでもできたかもしれません。でもここまでこれたのも私を育て、見守ってくれた人たちがいっぱいいたから。板橋民商も売れないときにニュースでガイナを紹介してくれたんですよ」と石子社長はいいます。
(1)子や孫に誇れる仕事をする(2)日々是勉強(3)自分の分に合った仕事をやり遂げる-を社訓に「ガイナを活用して快適な住環境をつくっていきたい。そして新しい製品開発にも挑戦したい」と次を見据えています。
▼株式会社日進産業
代表者 石子達次郎
住所 東京都板橋区坂下2-15-7
創業 1977年4月
社員 30人
【受賞歴】
・板橋区製品技術大賞〈環境賞〉(板橋区)06年11月
・勇気ある経営大賞〈優秀賞〉(東京商工会議所)06年10月
・島根県誘致認定企業(島根県)06年6月
・日本経済新聞社賞(信金協議会連合)06年3月
・東久邇宮記念賞(発明協会)03年6月など。
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